高齢者に多いお悩み ― 漏便(便失禁)について
「最近、トイレに間に合わない」「気づかないうちに便がもれている」
このような症状はありませんか?
漏便(ろうべん)、あるいは**便失禁(べんしっきん)**とは、自分の意思とは無関係に便がもれてしまう状態を指します。
高齢になるにつれて多くみられる症状であり、決して珍しいものではありません。
「恥ずかしい」「年のせいだから仕方がない」と一人で悩まれる方が少なくありませんが、適切な診断と治療により、症状の改善は十分可能です。
◆ 漏便の分類と原因
便失禁は、大きく以下の3つに分類されます:
- 切迫性便失禁(けっぱくせい)
強い便意を感じてもトイレまで間に合わずにもれてしまうタイプ
➡︎ 下痢、過敏性腸症候群、直腸感覚の低下 などが原因 - 漏出性便失禁(ろうしゅつせい)
便意がないまま少量の便がもれているタイプ(下着の汚れなど)
➡︎ 括約筋の筋力低下、神経障害、直腸の拡張 などが関係 - 機能的便失禁
身体的・認知機能の低下によりトイレ動作が間に合わないタイプ
➡︎ 歩行障害、認知症、パーキンソン病 などが背景に
◆ 高齢者に多い原因
高齢の方における便失禁は、以下のような複数の要因が重なって起こることが多いです:
- 加齢による骨盤底筋群の衰え(括約筋の筋力低下)
- 糖尿病や脳卒中後の神経障害
- 慢性便秘による直腸の拡張や便漏れ
- 腰椎疾患や脊髄障害による神経の伝達障害
- 認知機能の低下による排便の認識障害
◆ 検査と診断
当院では、以下のような検査を通して、原因を正確に把握します:
- 肛門内圧検査:括約筋の締まり具合を測定
- 直腸肛門超音波検査:筋肉や神経の状態を視覚的に評価
- 排便造影検査:便の通過や漏れ方を画像で確認
- 問診・排便日誌:排便のタイミングや生活状況を把握
これらの検査は痛みを伴わないものが中心ですので、安心してお受けいただけます。
◆ 治療法
症状や原因に応じて、以下のような治療を組み合わせて行います:
1. 保存的治療(非手術的)
- 食事療法:便の性状を整える食物繊維や整腸剤の活用
- 排便習慣の指導:便意に合わせたトイレトレーニング
- 骨盤底筋体操(肛門括約筋トレーニング)
- バイオフィードバック療法:筋肉の動きを視覚化しながら鍛える方法
- 薬物療法:下痢や便秘の改善、腸の動きの調整
2. 手術的治療(必要な場合)
- 括約筋形成術
- 仙骨神経刺激療法(SNS)
- 人工肛門の検討(重症例)
◆ 生活の質(QOL)の向上をめざして
便失禁は、外出の不安や社会的孤立、うつ状態を引き起こすこともあるため、早期の対応が非常に重要です。
適切な治療により、「安心して外出できる」「旅行ができる」といった生活の質の向上が期待できます。
◆ ご相談は専門の医師へ
当院では、肛門疾患・骨盤底機能障害を専門とする医師が診療を行っております。
プライバシーに十分配慮した環境で診察を行いますので、どのような症状でも安心してご相談ください。
「年のせい」と諦めず、まずは一度ご相談いただければと思います。